第1章

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「どうしたんすか?」  眉をひそめながら聞くと先生は合わせた手のひらをおでこの高さまで上昇させ『お願い』のポーズをつくった。 「ちょっと頼まれてほしいことがあるんだけど……」  扉の前に佇みむこと約五分間。  全身に広がる緊張感に打ち勝ち、震える指でなんとかインターホンを押す。  ピンポーンとありきたりなチャイムの音が鳴る。しかし扉が開かない。 「留守なのかな……」  先ほどの緊張感はいつの間にか消え去り。蝉の泣き声だけが耳を通過して頭蓋骨に響く。  もう帰ろう。回れ右して自室へ帰ろうとした。  その時。ガチャリと背後から金属音が聞えた。  すぐに振り返るとそこには、いつも窓越しに見上げていた老人の姿。ではなく、人形が扉の隙間からこちらを覗き込んでいた。 「!?」  まったく意図していない光景に度胆を抜かれる。どうしてこんな人形がここにあるんだ。  人形のもとへいこうか逡巡していると人形は後ろから首根っこを掴まれたように扉の奥へ消えてしまいドアも閉じられた。  急いで引き返して、もう一度インターホンを鳴らす。返事もなければドアもひらかない。  今度は手汗をびっしょりとかいた手でドアノブをまわす。  ドクドクドクとまるで坂道をダッシュした時のように心臓が踊る。  自分の部屋に逃げ帰るという選択は頭になかった。当たり前だ。あんなものをみせられたら誰だって真相を確かめようとするに決まっている。  鍵はかかっていなかった。扉を開け玄関へと足を踏み入れる。  厚いカーテンが垂れているのか室内は薄暗い。  それでも間取りは自分の部屋と同じなので迷わず奥へと進む。  入ってすぐのキッチンとお風呂場を抜けて、無人の居間へと進む。  居間にはテレビも見当たらず、壁の一部には大きめのカードらしきものが張られていた。みたところ誰かの写真か?暗くてはっきりとはわからない。  近くに電気のスイッチがあることを思いだし、つける。パチンとスイッチの音がして、天井に取り付けられた蛍光灯に人工的な光が灯る。  写真には僕が映っていた。   おそらくあの老人が隠し撮りしたのだろう。なんのためになんか気持ち悪くて想像もしたくない。  そして部屋の奥にさがしていた『人形』はあった。  特別に作ったのだろうか人間が座るには小さすぎる赤いソファーに腰を沈めている  大学で神山センセにみせられたロシアの民族衣装。
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