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その衣装をきた僕そっくりの人形を。
次の瞬間。背後から強い力で首を絞められた。
「うげ」
急激に足元から力が抜ける。顔はみえないがあの老人だろう。きっと風呂場に身を隠していたんだな。うかつだったな……。
このまま殺されるのかと思いきや、意識を失う直前。ふっと腕の力が抜けた。
立っていられなくなり、床に倒れこむ。
老人は僕を仰向けにし、ポケットから小指ほどのとても小さな小瓶を取り出し、栓をあけて僕の口につっこんだ。
小瓶には液体が入っていて、口の中の唾液に溶け込んでいった。
液体の正体は度数の高いアルコールらしく、みるみる内に口の中が熱くなっていった。
まぶたが重くなり、自然と閉じてしまった。
こんなことなら神山先生のお願いなんか聞くんじゃなかった。
インタビューのお願いなんか自分でして先生がこんな目に合えばいいんだ。
湯気のたった紅茶茶碗を手渡され、「スパシーバ」とお礼の言葉をいい、ふーふーと紅茶に息を吹きかけ、飲むふりをする。
そんな僕の姿に「彼女は」満足げに笑みを浮かべる。
くるりとまわれ右をして、今度はジャムを乗せた皿を持ってきた。
だから食べれないのだから、もってこられても困る。
眉間にしわをよせ、視線で「彼女」の抗議すると、彼女は狼狽した表情をうかべ、目元に涙を浮かべ始めた。
「……」
「……」
ああもうわかったよ。沈黙に耐えられなくなり、僕はジャムを指ですくって舐める振りをする。
すると「彼女」は頬を紅潮させ、再び真夏の向日葵のような笑顔を浮かべる。
老人に謎のお酒を飲まされた後。目が覚めたら、僕は「人形」になっていた。
僕そっくりの人形が着ていた服は、今は僕が着ている。
そして僕はビクスドールの彼女と部屋で一日中おままごとをして過ごしている。
(老人はたまに様子を見に来るのみ。「彼女」の希望だそうだ。)
「はあ……」
こんな日々が永遠と続くのだろうかと思うと自然とため息がでてくる。
そんな僕とは対照的に、長年の夢だったお婿さんが来てくれて「彼女」はとても幸せそう。
うつむくと、持っていた紅茶茶碗に僕の顔がうつりこんだ。
僕は瞬きすらしない、ガラス製の瞳をじっと覗き込んだ。
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