作家に対するあやふやなイメージで遊んでみる

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しばらく後、 どういうつもりか定食屋も 本当に深夜にライスカレーを次々持ってきた。 それを玄関の上がり框に胡坐をかいた坂口が よしきたとばかりに持ってきた傍から 次々勢いこんで食べ始めたが、 早くも五杯目くらいで腹がつかえ、 堪えて八杯までは漕ぎ着けた。 が、遂にそこで ピタリと動きが止まって 坂口は、両の頬をカレーと飯で一杯に膨らませ 両目をむき出し、 カレーの乗った匙を握った右手は 口の前で待ち構えているが、 肝心の口の方が開こうとしない。 一人の人間の中で、 入れようとする意志と入れまいとする意志の 二つの意思が、 唇を境にせめぎ合い劇的な葛藤を見せたなり 運慶の仁王像みたく硬直し 微動だにしなくなった坂口を見て、 どんな友情のつもりなのか、壇も、 「俺も一緒に食うぞ!」 と、坂口の隣に座って、 何か戦でもしているかのように食い始めた。
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