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猫のようにそっと
廊下を渡らなくてはならない
居残りの肩身の狭さに耐えながら、
ひたすら太宰の帰りを待っていた。
が、案の定、
太宰は戻ってこなかった。
その後、
壇がどのように救出されたか
それは知れないが、
太宰がかの「走れメロス」
を上梓したのは、
こんなことのあったすぐ後だったという。
この小話のようなエピソードを知ってから、
私は、
「走れメロス」の良さに初めて気が付いた。
あれは、
人間の信義の尊さを謳い上げた一篇
ではなくて、
むしろ、そうしたものがいかに人間にとって
信じられないほどの理想であるかを
力説するための
太宰の言い訳だったように思う。
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