作家に対するあやふやなイメージで遊んでみる

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この壇一雄に、もう一人、 作家の悪友がいて、 それが例の坂口安吾なのだが、 どこかエセインテリやペテン師を思わせる 太宰とはうって変って、坂口は 学生時代は陸上選手だったという経歴からも 分かる通り、 どうやら体育会系の気質の男 だったのではあるまいか。 この坂口が、 壇にかけた迷惑にライスカレー事件 というのがあって、 これはある晩、 二人ともしたたか酔ってもつれるように 壇の家に転がり込むと、 何やら口論が始まった。 家人がその内容をよくよく聞いていると、 どうやら大の男二人してライスカレーが百杯 喰えるかどうかで 延々喚き合っている。 バカバカしくなって寝ようと思い 寝室へ引き下がろうとしたところ、 坂口が「奥さん、 ライスカレー百杯注文してください、 わたしがそれを平らげてみせます!」 壇の奥さんが夫の方を振り向くと、 よせばいいのにふらふら覚束ない足取りで もう手に黒電話をつかんで持ってきている。 坂口がいったん酒を飲みだすと 親の仇か恨みのように 必ず正体をなくすところまで行かないと気が済まず、 正体をなくすと決まって無茶を言いだし人を困らせ 面白がる悪癖があることをよく知る 壇の奥さんは、 ため息をついて夫の手から
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