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僕は礼を言って、その場を去ろうとした。
その時、胸の大きな女の人が僕の行方を阻む。
「白峰さん、貴方、チュパチップスの作業服じゃない」
僕は心臓が跳ね回るのを感じながら辛うじて返答した。
「そうですが、何か?」
「私、諸熊奈知。チュパチップス愛好家よ。新商品が出たら、直ぐに私に教えて頂戴。もしかすると、魔法使い(30過ぎの童貞)を卒業できるかもしれないわ」
僕は諸熊さんをマジマジと見た。仕事は辛いだけで何度も辞めようと思っていたけど、これは好都合だった。それぐらい、諸熊さんの目は真剣だった。
「あ、あの…」
精一杯声を振り絞る。
「美味しい料理をたまに作りに来て下さい。食材は僕が仕入れますので」
喉が乾く。唇を舐めて、唾を飲み込んだ。
諸熊さんは一目で惚れてしまったのが自認出来るぐらいの笑顔で僕に笑いかけた。
「料理は程々にできるわ。それだけでいいのかしら?フフ」
小栗色の長い髪の毛をサッとかき上げる姿にもまた惚れ惚れとしてしまう。
「僕のことは仁と呼んで下さい。チュパチップスならいくらでも差し上げます。な、何味が好きです?」
「チョコレートよ」
僕は嘘を吐いた。
「僕もチョコレート味が大好きです」
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