第1章

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刺青師剣 私は神父たるものいつでも人間らしくあってはならないと考えていた。諸熊に弱いのは私の未熟な年柄故にだろう。 諸熊は私の憧れだった。 赤い髪に染める決意をしたのも諸熊が赤髪の男と付き合っていると知ったためだし、夏海凪と華園姫花に残酷な知らせを届けたのも〝バーチュ〟の言うことを真に受けたためだった。 諸熊は私の加護をお願いするとアッサリOKサインを出した。 あの時の喜びは私の人生の中で最も至高の時だったと言えるだろう。更に彼女は教会が潰れないよう、盗人をやるのを許して欲しいと請うた。事実、教会は赤字だったし、〝バーチュ〟曰く諸熊は幼い頃、両親に捨てられ、盗癖が付くまで身の縮まる思いをして生きて来たようだった。 諸熊はこの辺りでは知らない人はいない〈怪盗スマルチェスタント〉だと私だけが知っている。相手の次の手を読む能力は盗人として最良なようだった。 次の諸熊の標的は那古野(ナコヤ)氏のサンドローズらしい。 〈怪盗スマルチェスタント〉は教会の奥へと姿を消した。 私は少しだけホッとする。 怪盗小栗色は抜け目がない。〝バーチュ〟の〝呪い〟で繋がっているのを知ったら、また別の赤髪と付き合うかもしれないだろう。
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