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白峰仁
「藤太(トウダ)、最近見ないな」
「和彦のヤツ、女と夜逃げしたんじゃね?」
「え?あんなヤツとヤる女いんの?」
「世の中広いからな!」
「白峰がエベレストで凍死するぐらい珍しいことじゃないか。なあ?仁君?」
僕は和彦を探す振りをしながら、頷いた。
「うん。珍しい」
羽咲(ハザキ)が僕の肩を何度も強く叩く。
「エベレスト、どうだった?」
僕は意味が分からなく、仕方無く疑問を投げ打った。
「え?」
「半裸のいい女がバカ神父様のお家から出て来るのを見たぜ?お前の後から。間違いなくエベレスト登ったな。間違いなく」
僕は焦る気持ちを拳に包んで、2D-612機種のチェリー味のチュパチップスを作る作業を再開させた。僕の気持ちは簡単にバラされる訳にはいかなかった。例え、無視したと捉えられて、暴力を受けようとも。
次のターゲット、羽咲が僕をジロッと睨み立ち尽くした。
僕は、何事もない顔をして、作業に没頭している振りをする。
心臓の脈が僕を動揺させた。思わず手が震える。
羽咲は僕の肩甲骨目掛けて殴りかかった。
僕は手が機械に挟まれそうになり、ヒッと一声上げると手を素早く退け、傷一つ付いていないことで安心した。思わずその場でヘタレ込む。
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