第2章

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私は一般市民の目からしかその理論を受け止められない。人間はチッポケな存在だとほとほとウンザリさせられるぐらい体感して来た。だが、宇宙が人間の真の姿なら、もう少し優しくなっても良い気がする。その点、刺青師は並みの人間より賢かった。要するに都合の良いことを信念にすれば、生きやすいことを狡猾にも計算に入れていることになる。 刺青師は白峰仁のことをどうする気なのだろう。どう見ても教誨師(懺悔師)としての彼の役割は度が過ぎている。仁は発狂しているのだ。にも関わらず、精神病院を勧めない何かが刺青師にあった。 〝バーチュ〟か…。 仁との食事会を想像して、和むはずだったのに、第6感が悪寒を告げていた。 チュパチップスをガリッとかみ砕く。 怖い?私らしくない。 夏の夜の熱風に長い髪を揺らしながら、欠伸を噛み殺した。 さて、獲物を坊やに届けないと。刺青師は街の外で良い質屋を知っている。古くから飾られていたサンドローズはおよそ50万円相当で売れるだろう。 私のお陰で酒嬢協会は潰れる心配はない。 ただ最近見せる刺青師の疲れた表情が心を曇らせる。 前、蛆虫が一匹、教台に這っていたのを何の嫌悪もなく慈悲さえ失くして潰していた。
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