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諸熊奈知
チョロい。
私は戦利品の館の鍵を人差し指に引っ掛けてクルクル回していた。神父の坊やは私に気があるようだし、長年使われていない、お化け屋敷でちょっと遊んでみても構わないのではないか。あの館はこの街、木偶の塔街(デクノトウガイ)で一番大きく、一番忌み嫌われている。誰も邪魔しないだろう。
私はチュパチップスの飴を舐めた。何味か分からないのが醍醐味の飴だ。色はいつも赤で味が不釣り合いなことが多い。今日の物はどうやら珈琲味らしい。
微かに顔をしかめる。
甘党の私としてはチョコレートが一番なのだが、こういうこともある。
飴は実はダイエットにいい。甘い物を口が覚えると食欲が減るとどこかの本に書いてあった。と言っても私の頭の中で考えられた発明かもしれない。要するに信憑性に欠ける訳だ。
私は刺青師の坊やの所へ帰って来た。
「ねえ?」
刺青師は物憂げに俯いていた。蟻一匹も殺すのに躊躇うような表情だった。
私はもう一度、高飛車に話しかける。
「ねえ?刺青師。貴方の欲する物は〝盗って〟来たわ」
刺青師は赤髪を手櫛で整えて、私の存在に今、気付いたかのような顔で振り向く。
恍惚とした目で私を愛撫するのはこれが初めてではない。
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