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▽
「あーーー! アイツっすよ!!」
放課後、下校の途中でスネオとモジャ公が寄ってきて勝手にペチャクチャ喋っていたのだが、急に耳元で叫ぶものだから、耳がキーンとなった。
「っ!……うるっせーな、何がだよ……」
スネオが指差した先には、一人の男子生徒。
「アイツっす! 公助の腕やったの!」
その大声に、男もこちらに気づく。
「ん? なんだ、昨日のチンピラ雑魚野郎かよ」
「んだとっ!」
「なめてんのか!」
スネオとモジャ公がいきり立つ。
玄関前から校門にかけて下校する生徒で賑わっているのに、俺達のいる周りには巻き込まれては堪らないといった感じで誰も近づかない。
そんな中、睨みを利かせた二人を前に一切の恐れも怯みも見せないその男。
……話には聞いていたが、本当に小さい。
スネオとモジャ公の二人も170センチちょっとと決して大柄ではないが、それより10センチ以上は小さいと思う。
「……」
不良の中でも武闘派で慣らしているモジャ公が、こいつに負けたというのか。
男はチラリと俺に視線を向ける。
「リベンジで、ボス猿連れてきたって訳か」
ブチッ
男の言葉に。
「誰が、ボス猿だぁぁっ」
俺じゃない。
モジャ公が、キレた。
モジャ公は怪我をしているにも関わらず、無事だった方の右手を男目掛け大きく振りかぶった。
拳は、ブン! という音を立てながら、空を切る。
「「……」」
要は、盛大に空振りした。
「ふ」
モジャ公の拳を簡単に避けた男は涼しい顔だ。
「チョロチョロしてんじゃねー! こんのチビが!」
今度はスネオが男に掴みかかって、ガシッと胸元の制服を捉えた。
……と、男は胸ぐらの掴まれた手をさらにグッと 引き、スネオの重心を前に崩すと、足を払って一気に投げた。
「ぐえっ!」
投げられたスネオは、カエルみたいな声を出した。
「へーぇ」
俺は仲間がやられて怒るどころか、男の流れるような所作に感心してしまっていた。
「ボス猿君は見掛け倒しかよ?」
黙っているだけの俺に軽蔑の眼差しを向けた男は、そのままくるりと背を向けた。
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