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熱かった。
ゴクンと呑み込んだ唾は吐き出したい程の不味さで、それが初めて知る煙草の味だと美羽の働かない頭に否応無く伝え、頬が耳が火照っていくのが分かる。
「……え?」
漏れ出た問いさえ熱く、美羽は震える指先で自分の口元を押さえた。唇が熱を持って、ぷっくりと膨れているような気がする。
ここに、本当に永瀬が触れたのだろうか。
「嫌いになった?」
「……馬鹿ッ!」
見る見る内に溢れ出した涙も熱かった。それを送り出す目許は、さっきの涙も相まってヒリヒリと痛み、熱を持つ。
顎もヒリヒリした。永瀬の髭が当たったのだろうか。どこもかしこも熱かった。
けれど、一番沸騰しているのは、きっと頭だ。
「馬鹿ッ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿……ッ」
美羽が出来なくて泣いたことを平然としてみせて、また差を見せつけた男は、表情の読み取れない顔で美羽の前にしゃがみ込み、見られたくない顔を覗き込もうとする。
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