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まだ温かいココアをしゃくりと共に啜ると、生クリームがとろりと溶けた。
永瀬は、珈琲だけでなく、調理の腕も良い。美羽のお気に入りはオムライスで、ふわふわの黄色い卵を仕上げる永瀬の太い腕を思い出すと、ギュッと胸が締め付けられる。あんなに大きな図体の癖に、やることは一々繊細なのだ。
一人で永瀬を想ってほっこりし、一人で切なくなる。
溜息の行き先を追う様にガラス窓に視線を移す。
美羽は、この店が好きだ。もちろん、永瀬がいるということも大きいけれど、永瀬に好意を抱く前から、この店が好きだった。
分厚いレトロなガラス窓は、薄っすらと碧がかった格子状だ。艶のある濃茶色の木材がふんだんに使われた店内は落ち着いた印象で、時の連なりを感じさせる。
普段はカウンター内に落ち着いている永瀬は、まだ20代のはずなのに違和感が無い。180cmを超えていそうな背を、少し屈めるようにしてサイフォンに向かっている姿は、この店に元々あるかのように馴染んでいる。
真っ白なシャツに、真っ黒なエプロンとパンツは、全部コットンだろう。がっしりした体躯に無駄な肉付きはなく、程よく妬けている。
日本人女性の一般的な好みから言えば、少々彫りが深すぎる、はっきりした顔立ちだが、整っていると言っても良い。
しかし、女性受けするには、顎鬚の印象が強すぎるだろう。初来店の客が、ぎょっとした顔を向けているのを見たのは、一度や二度ではない。
客商売にそれで良いのかと心配になるが、物静かで落ち着いた永瀬の印象は、そのまま店の印象であり、一度腰を落ち着ければ皆ほっとした顔をしてくれるのだ。
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