ココアにとろける涙味

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美羽も同じだった。 あの日、まだ中学生の美羽は初めてこの店に入ると、素っ気無い永瀬に驚きながらも席に着いた。 初めて一人で見知らぬ店に入り、緊張していた美羽は、ごゆっくりと言った永瀬の声が思いがけず穏やかだったことに安堵して思わず顔を上げた。 両親の離婚が決まった日だった。 長い間不仲で、離婚は時間の問題だとは知っていたが、それでもまだ幼い美羽には大きな衝撃だった。 両親が常に居心地悪そうにしていた寂れた自宅には、居たくなかった。学校や繁華街や駅前のカフェやファストフード、その他思いつく限りのところは知り合いに会いそうで行きたくなかった。頼みの綱と思って出掛けてきた、学区外にある県立図書館は休館日だった。 その代わりに、ここを見つけた。 入ったことのない店、それも明らかに大人向けの店に入るのは相当な勇気がいったが、他に行くところもなく、美羽の前に大学生くらいの綺麗な女の人が二人連れ立って店に入るのを見て、それに着いて行くようにして入ったのだった。
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