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案の定、中学生の美羽が友達と行くカフェとは違う落ち着いた雰囲気だったが、永瀬は静かに迎え入れてくれた。
そして、温かく甘いココアにとろりと心が溶け出してしまった。
いつの間にか美羽は、一人で泣き出していた。声も無く、ただポタポタと涙をテーブルに落としていた。
店内には背を向ける席で、ただ壁とテーブルと、ココアの湯気が段々と薄くなっていくのを見ながら、延々と零れる雫を指で払っていた。
どの位そうしていただろう。
やがて思い出したようにココアを啜り、テーブルに作ってしまった小さな水溜りをお絞りで拭き取ると、永瀬がグラスに水を注ぎ、新しいお絞りを置いていった。
言葉は無かった。美羽はじっと俯いていたから、永瀬がどんな顔をしていたのかも知らない。ただ、ここに居ていいと永瀬に認められた気がした。
しばらくしてすっかり落ち着き、トイレで顔を洗ってから店を出ようとして、通路が狭くなっていることに気づいた。
美羽の居た席を隠すように、店内の観葉植物の位置と近くのテーブルの位置が、さり気なく移動していた。
永瀬がやったとしか考えられなかった。店員は永瀬しかいなかったのだ。
それからここが、美羽が一番居たい場所になった。
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