ココアにとろける涙味

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閉店後の薄暗い喫茶店で、美羽(みう)は途方に暮れていた。 美羽の下では、髭面の大男が打ちつけた後頭部を押さえて、顔を顰めている。 高校一年生の美羽は小柄で、肩も腰も細いという自覚はあるが、男の体積は美羽の倍はありそうだ。ウエストに余分な肉が載っているわけでもないのに、美羽の膝では挟みきれないほどの胴回りがある。自然、横たわった男のウエストを膝立ちでは跨ぎ切れず、トスンと全体重を掛けてしまっていた。 ことの発端は、大したことではない。 髭面の大男こと、美羽のバイト先であるこの喫茶店の店長、永瀬(ながせ)に美羽が猛アタックしていただけであり、二人にとっては日常のことだ。 ただ、いつもより少しだけ勢いが良かったのか、運動神経の良さそうな永瀬でもよろけることがあるのか、気がついたら押し倒していたのである。 「わ、わざとじゃないですからっ!!」 何とか絞り出した言葉は、それだった。永瀬は、ジロリと美羽を無言で見上げる。嘘じゃないのだと、美羽は必死で訴えた。
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