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「いいから、退け」
永瀬がぼそりと言って、美羽はぶるりと体を震わせた。
すっかりパニックになって、永瀬を踏み潰したままだった。慌てて体を起こそうとして、けれど、大きな永瀬の体を踏まずにどうにかしようとして、筋力の無い美羽は失敗した。ズルリと体が滑って、反射的に手をついた先は、永瀬の厚い胸板だった。
「ひゃっ」
手のひらを跳ね返した筋肉は、美羽の体とは違う硬さを伝えていたが、無機物ではない弾力がある。
悲鳴と共に手を離したのはいいが、元々バランスを崩していた体は呆気なく倒れる。ぺしゃりと崩れ落ちた先は、もちろん永瀬の上半身だ。
「……ったく。何やってんだ」
舌打ちを響かせ、永瀬が身じろぎをする。
それだけでビクッと震える美羽を鼻で笑って、永瀬は身を起こした。必然的に美羽との体は密着したままだが、美羽が自力で起き上がれないなら仕方が無いと思ったのだろう。
「人の貞操奪おうってやつが、これくらいで恥じらってるんじゃねえよ」
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