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恥ずかしさと悔しさで涙目になりながらも、美羽は永瀬を睨み返す。
このくらいでしょげていては、このだいぶ歳上の大男を半年も、いや、永瀬には言っていないが、実のところ二年以上も追い掛けられはしないのだ。
「は、恥ずかしくないもん! キスするんだもん!」
「ああ、そう」
永瀬は、ろくに聞きもせずにあしらい、自分の上から退かない美羽の肩に手を掛ける。
「嘘じゃないもん! わたしっ……」
永瀬に掴まれた肩が熱い。感情が昂って、声が跳ねる。熱が、目元に溜まっていく。心臓がバクバク打ち鳴らされていることを、今更ながらに意識した。
けれど、永瀬は平然としたままだ。
いつもそうだ。美羽がどんなにドキドキしても、どんなに努力しても、どれだけ想いを伝えても、永瀬には何も伝わらない。
こんなこと、今まで無かった。勉強も運動も、好きなことも嫌いなこともあったけれど、努力すれば大なり小なり結果が出た。
友達とだって、親とだって、先生とだって、好きな人も嫌いな人もいたけれど、努力すれば、それなりに仲良くできた。
何をしても響かないのは、永瀬だけだ。
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