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「どうした。しないのか」
今や涙は滝のように頬を濡らし、視界を白く塗り込める。未だ美羽を腹の上に載せたまま、永瀬がどんな表情で、それを言ったのか分からなかった。
「……初めてだから、どうしたらいいのか分からない」
ほっぺたにでも、チュッてしちゃえばいいんだよ。クラスメイトの声が蘇る。ドラマで見たように軽く、チュッと。
何をしても振り向いてくれない永瀬に、美羽はそうするつもりだった。
でも、できない。
なぜか永瀬は、おとなしく片手で届く範囲にいてくれているのに、美羽と言えばペタリと永瀬の上に座り込んだまま、嗚咽を漏らすことしかできないのだ。
情けなくて、恥ずかしくて、永瀬にどう思われているのか怖くて、顔を上げることさえできない。
「じゃあ、こんなおっさんにしようとすんな」
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