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ポンと大きな手のひらが頭に載せられた。
一瞬でそれは離れて、美羽は両肩をそっと押される。
静かに美羽の下から抜け出した永瀬は、背を向けてキッチンへと入っていった。
その大きな背中を、美羽はやっと上げられた視線で追う。
永瀬が見せてくれるのは、背中ばかりだ。美羽が話し掛けると、一度は見てくれるが、すぐに目を逸らす。横を向き、気づけばいつも背を向けられてしまうのだ。
「……でもっ、好きだからっ!!」
背中を向けながらも、永瀬の耳はいつも最後まで美羽に向けてくれている。仕事で失敗すれば容赦なく叱るけれど、営業時間外なら、どれだけ話し掛けても付きまとっても、思い余ってベタベタ触っても決して怒らない。振り払われたり、睨まれたりはしょっちゅうだけれど、どこか許してくれているのを感じている。
だから、嫌いになれないのだ。
永瀬は、チラリと振り向いて大きな溜息をついた。呆れられたと思ったけれど、涙は急に止まらない。ヒクつく喉がチリチリと痛む。惨めな気分はどんどん増長して、溢れる涙に変わっていく。
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