恐怖の上司

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恐怖の上司

『検体が脱走しました。警護班は至急確保に向かってください。繰り返します…』  オレたちのボスの声が管内に響く。ボスには違いないのだが、パート従業員だ。暇つぶしで、ここに働きに来ている、呆れたお方だ。 「真奈美ちゃんって、パートの時給千円だったかな?」  オレは西条に聞いた。 「ええ、お嬢様から聞きました。千円よぉー!って」  西条はマニュアル通り、『お嬢様』と、真奈美ちゃんのことを呼ぶ。オレだけが、例外になってしまったようだ。なぜか、『真奈美ちゃん』と呼ぶように仰せつかったのだ。そして、敬語は厳禁。『お友達のように話しなさい』とも仰せつかったのだ。これを破ると、雷が落ちる事になっている。この歳になって、叱られるのも面倒だ。仰せつかったことは守るようにしている。ちなみに、必ず『真奈美ちゃん』と頭の中で思っていないと、すぐにボロが出てしまう。オレは、不器用すぎるのだ。 「さて、行くか!」  オレは立ち上がる。  西条はのんびりと構えている。 「はーい、ちょっと待ってくださーい!」  相変わらずだな。  また検体が逃げた。相当優秀なヤツらだ。しかし、オレたちからは逃げられない。場所はもうすでに、わかっているからだ。ヤツらは、知能が異常に高い。ここの研究員や警備班だと、逃げ出すことは容易いだろう。しかし、オレたちの作戦には抜かりはない。ヤツらが逃げ出すことは不可能なのだ。 「今日は、あそこっすよね?」  西条が腑抜けたような声で言った。いつもの調子だ。 「ああ、その通りだ」  オレたちの付き合いは長い。もう20年になろうとしている。いや、もう遠に過ぎてしまったか。『もうすぐ銀婚式っすねぇー』と西条は恥ずかしげもなく言う。オレはそういう西条が好きだ。 「ああ、いたな。おい! 逃げられんのはわかっただろう。言っておくが、お前の攻撃は、オレたちには効かんぞ。諦めて、元いた場所に戻れ!」  ここで、否定する行動を見せたら、即抹殺。ここの決まり事だ。検体はすごすごと、元いた場所に戻っていく。10メートルはど離れ、オレたちも油断しないようについていく。ヤツは自ら檻に入った。自動で扉が閉まる。こんな簡単なことで、オレたちの仕事は終わりだ。
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