11人が本棚に入れています
本棚に追加
「ウマそうな炊き立てご飯をあろうことか平らな皿に盛り、その上に見たこともない茶黒いドロドロしたもんをかけるだなんて。日本人として黙っちゃいられねぇな」
その言葉に反して、唯斗の頬は緩んでいた。口の端からは、今にもよだれが滴り落ちそうである。匂いだけでも、この料理のインパクトは強烈だ。
「でも、いい匂いだろ?」
「ああ。悔しいが超ウマそうだ」
「スプーンで召し上がれ」
差し出したスプーンを奪い取り、唯斗は恐る恐るその料理を口にした。
「こ、これは!」
それだけ言って、唯斗が次に言葉を口にしたのは、皿を空にした後のことだった。
「ウマい!何だよこれ、信じられないほどウマい!深いコク、ピリリとしたスパイスの刺激、野菜も肉も米も摂れる万能感!あと何杯でも食えそう!毎日でも食いたい!完全食じゃん!これからのご飯全部これでいいじゃん!おかわり!」
僕は唯斗の差し出した皿を受け取り、もう一度皿に料理を盛り付けた。
「ウマいだろ?日本じゃ馴染みがないが、この料理はインド発祥のカレーっていう、スパイスをブレンドした独特の食形態を、僕が日本人好みに配合しとろみをつけ、ご飯にぶっかけたものなんだ。名付けて“カレーライス”ってとこだな」
カレーライス。それが、この物語のもう一人の主役の名前である。
「カレーライス……か」
唯斗は二皿目もあっという間に食べきり、スプーンを握ったまま言った。
「これだ!これなら、MVP狙えるぜ!」
「え?これでいくのか?学園祭の出し物」
「ああ、俺は直感した。この遺伝子を揺さぶられるような味。これはもう、学園祭MVPどころの話じゃない。日本料理界に革命を起こしかねない。きっと来る、このカレーライスがラーメン並みに日本人の国民食となる時代が。何故今まで日本の食卓にこれがなかったのか。そう思いさえする不思議な感覚だった」
最初のコメントを投稿しよう!