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と、次の瞬間、
「……っ!」
男が私の身体を抱き寄せた。
「何すんのっ?離せ……っ!」
「華ちゃん、確かに〝あの時”はそれで良かったのかもしれない。でも〝今”は別の苦しみでもがいているんじゃない?」
「うるさいっ!黙れっ!」
「寂しくて、虚しくて、ずっと〝ここ”から出ない生活を送るのかって不安なんだ―…」
「他人の心配よりも自分の心配しろ……っ!」
私を抑えつける強い力に抵抗しようと精一杯にもがく。
でも、それ以上に男の力は強い。
見かけ以上に、ずっと。
それでも手足、身体を動かして、やっと右手だけが自由になった時、私はそれを大きく振り上げた。
そんな私と男の瞳が合う。
強くて、惹き込まれそうな瞳―…
それに奪われるように、力が緩んだ瞬間、
ビュー……ッ……
強い風が開けたままの窓から吹き込んできた。
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