第1章

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「はあ、お腹いっぱい。ご馳走様。」 そう言うと静かになった。私は、誰かが食べ物を与えた事を大丈夫かと心配したが、内心ほっとして眠りについた。  次の日の朝、隣のベッドから苦しそうな息遣いが聞こえた。どうしたんだろう?佐藤さん、具合が悪いのだろうか?私が心配している側から、おええとえづいて、床に吐しゃ物が飛散する音が聞こえた。 これは大変だ。私は急いで、自分のベッドのナースコールを押した。 「どうされましたあ?」 スピーカーから看護士の声。 「さ、佐藤さんが!具合が悪そうなんです!すぐに来てください!」 「はい、わかりましたー。」 私は、すぐに佐藤さんの病室を覗いた。 「大丈夫ですか?」 吐しゃ物のすえたにおいに、こちらまで吐き気がした。 床には吐しゃ物が飛散していて、私はもろにそれを見てしまった。 吐しゃ物の中に、何か違和感を感じた。 緑色の吐しゃ物。それは、見たことのある形だった。 「か、カエル?」 嘘でしょう?なんで、吐しゃ物の中にカエルが。しかも、胃液で少し溶けている。 私は思わず口を塞いだ。 看護士がかけつけて、吐しゃ物を始末して、もう一人は佐藤さんの意識確認をした。 「佐藤さん、佐藤さん、大丈夫?私がわかる?」 ぐったりとした佐藤さんは、薄目を開けた。 「わかるよー。看護婦さーん。」 良かった。意識はあるみたいだ。  佐藤さんはそのまま、検査室へと運ばれた。 私は、自分が見た物をにわかに信じられなかった。 きっと気のせいよ。佐藤さんが食べた何かがカエルに見えただけだわ。 でも、緑色の体には、小さな目が。 自分のすぐ足元で見たのだ。 いやいや、やはりあり得ない。 そう思いつつも、夕べ佐藤さんのベッドを訪れた誰かが、佐藤さんにカエルを与える姿を思い浮かべてしまうのだ。  佐藤さんは2時間ほどで、病室に戻ってきた。 「かあんごふさあああん。ご飯まだぁ?」 あれだけ吐しゃしておきながら、ご飯を食べるのか。大丈夫なんだろうか?  私は、佐藤さんに何も異常が無いことに驚き、また、不謹慎ながら、少しがっかりしていた。 最低だと思われても、本当にこちらが参ってしまう。とっくに点滴が外れても良さそうなのに、私はまだ点滴でつながれている。これも全て佐藤さんの所為のような気分にさえなる。
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