第1章

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 私は溜息をつき、点滴を押しながら、トイレに向かった。 ナースステーション前で看護士同士が話をしている。 吐しゃ物、異物、などの言葉が聞こえてきたので、私は聞かない振りをして、耳をそばだてた。 「カエルだったの。」 「えー、うそぉ、なんで?佐藤さん、歩けないじゃない。自分で食べるのはあり得ない。」 やっぱり。あれはカエルだったんだ。私はそれを聞いたとたんにまた、胃の奥のものがせりあがってきた。  誰が佐藤さんにそんなものを食べさせたんだろう。佐藤さんも、カエルと食べ物の見分けくらいつくだろうに。 私がいくら考えてもわからなかった。  トイレに行く途中、エレベーターが開き、今日もアイコちゃんが遊びに来た。 きぃきぃガラガラガラガラ。アイコちゃんの点滴棒は、少し調子が悪いようだ。他のに比べて、きぃきぃという金属音が酷いような気がする。アイコちゃんの行き先を見ると、やはり私達の病室へと入っていった。 よほど佐藤さんに懐いてるのね。少しの間静かになりそうだから、トイレから帰ったら少し眠ろう。  その夜も、消灯したのに、また佐藤さんが騒ぎ出した。 「かぁんごーふさあん。ご飯まだあ?」 たぶんしばらくは、看護士も無視をきめるつもりだろう。看護士だってやってられない。 私は溜息をつき、常夜灯をともして、睡眠をあきらめて本を読むことにした。 本の文字を追っているうちに、私はどうやらしばらく眠っていたらしい。  佐藤さんが誰かと話す声で目がさめたのだ。 「おいしいねえ、おいしい。ありがとうねえ。」 私はデジャブを覚えた。また夕べと同じだ。私は佐藤さんが吐しゃしたものを思い出して気分が悪くなった。 いったい誰が、佐藤さんにあんなものを。 私は、佐藤さんのベッドをカーテン越しに見つめた。 佐藤さんの側に、誰か居る。小さな影。女の子。 しばらくすると、その小さな影は動いた。 きぃきぃきぃきぃ。ガラガラガラガラ。 私は、その音を聞いてぞっとした。  嘘!アイコちゃんが?どうして。確かに小さな後姿は、おかっぱの少女そのものだった。
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