第1章

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 私は、それから眠れなくなった。そういえば、昼間、アイコちゃんを病院の中央の吹き抜けの庭で見かけた。一階の自動販売機でジュースを買って飲んでいた時に見かけたのだ。点滴をつけたまま座り込み、なにやら土を弄っていた。病人、しかも、あんな小さな子が外に出ているのに、看護士は誰一人注意しない。大丈夫なのだろうかと、心配になり、声をかけようとしたのだ。すると、彼女は土いじりをやめて、中に入ってきたので、私はほっとしたのだった。  アイコちゃんが、もし、佐藤さんにあんなものを食べさせたとしたら?私は、想像してはいけないものを想像してしまった。まさか。まさかね・・・。  朝方、少しうとうとしていたら、看護士の悲鳴で目が冷めた。 「きゃあああ!」 何が起きたのだろう。 私は、気になり体を起こすと、のろのろと点滴棒をつきながら、隣のベッドを覗いた。  看護士の女性が呆然と立ち尽くしている。すぐに、私の鼻をまた吐しゃ物のすえたにおいが突いた。 「いやああああ。」 看護士の悲鳴が続く。 「どうしたんですか?」 私は、隣を仕切っているカーテンを少し開けた。 そのとたん、私の目をグロテスクな風景が捉えた。  床の吐しゃ物の中に、何かがうごめいているのだ。 「・・・嘘っ!ミミズ!」 騒ぎを聞きつけて他の看護士もかけつけた。 信じられない数のミミズが、床を這い回る。 私は我慢できずに、自分も胃液を吐いてしまった。まだ何も入っていない胃からは胃液しか出ない。 佐藤さんはぐったりしている。 すぐさま佐藤さんは、運び出されて、大量のミミズと吐しゃ物は大急ぎで片付けられた。  私もしばらく、看護士に介抱され、ようやく気分がよくなってきたところで、思い切って看護士に昨日の出来事を話してみようと思ったのだ。 「あのう、もしかしたら勘違いかもしれないんですけど。ひょっとしたら、佐藤さんに異物を与えてるのは、アイコちゃんかもしれないんです。私、見たんです。アイコちゃんが、夜中に佐藤さんのベッドから離れるところを・・・。」 私がそう言うと、看護士はキョトンとした顔をした。 「アイコちゃんって?誰ですか?」 私はそう問われたので、 「2階の、小児病棟に心臓病で入院している、髪の毛がおかっぱの可愛い子ですよ。アイコちゃん。」 と答えると、看護士の顔が青ざめて強張った。
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