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「アイコちゃんは・・・。1年前に亡くなりましたよ。」
私は戸惑った。
「え?でも、毎日佐藤さんのベッドに遊びに来てましたよ?それ、別の子じゃあないんですか?」
「今、小児病棟に、アイコという名前の子はいませんよ。」
「でも、毎日、佐藤さんと遊んでたんです。佐藤さん、アイコちゃんが来る時だけ、正気に戻って、すごく可愛がってましたよ。アイコちゃんが来るとすぐわかるんですよ。点滴棒がアイコちゃんのだけ、きぃきぃという金属音がするんです。」
それを聞いた看護士は、手を口で覆った。
「その点滴棒、1年前アイコちゃんが使ってて、壊れたのでもう処分してるんです。」
私は全身が、あわ立った。嘘でしょう?今まで、私達の病室に遊びに来てたのは・・・。
その日から、佐藤さんは個室で面会謝絶となった。悪質な悪戯が横行していると判断した病院による措置だった。
アイコちゃんは、もうこの世に居ない。じゃあ、あの子はいったい誰?
私は消灯時間になっても、なかなか寝付けなかった。すると、エレベーターが開く音がした。
ピンポーン。
きぃきぃきぃきぃ。
ガラガラガラガラ。
きぃきぃきぃきぃ。
ガラガラガラガラ。
きぃきぃきぃきぃ。
ガラガラガラガラ。
私の心臓は早鐘のように鳴った。
来る。近づいてくる。
この点滴棒の音。
アイコちゃんだ。
今日はこの病室には佐藤さんは居ない。
私だけ。
入り口でピタリと音が止まった。
いやだ。来ないで。
私は、布団を頭まで被って震えた。
きぃきぃきぃきぃガラガラガラガラ。
だんだんと音が近づいてくる。
もう心臓が爆発しそう。
シャー。
カーテンの開く音。
私の口はカラカラに渇いた。
いやだいやだいやだ。こないで。
ここには佐藤さんはいないから来ないで。
「おばちゃん、かくれんぼ?」
アイコちゃんが無邪気な声で言う。私は心臓を鷲づかみにされたように動けない。
ウフフと彼女が笑う。
「みぃ~~つぅ~けたああああ。」
ベッドの側に立っていたはずのアイコちゃんの顔が、私の目の前にあった。
布団の中だ。
私の意識はそこでブラックアウトした。
翌朝、ブラインドから洩れる日差しで目が覚めた。
あれは、夢だったのだろうか。私があの子を怖がるばかりに。
夢と現実が、よくわからなくなってしまった。
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