第1章

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「アイコちゃんは・・・。1年前に亡くなりましたよ。」 私は戸惑った。 「え?でも、毎日佐藤さんのベッドに遊びに来てましたよ?それ、別の子じゃあないんですか?」 「今、小児病棟に、アイコという名前の子はいませんよ。」 「でも、毎日、佐藤さんと遊んでたんです。佐藤さん、アイコちゃんが来る時だけ、正気に戻って、すごく可愛がってましたよ。アイコちゃんが来るとすぐわかるんですよ。点滴棒がアイコちゃんのだけ、きぃきぃという金属音がするんです。」 それを聞いた看護士は、手を口で覆った。 「その点滴棒、1年前アイコちゃんが使ってて、壊れたのでもう処分してるんです。」 私は全身が、あわ立った。嘘でしょう?今まで、私達の病室に遊びに来てたのは・・・。 その日から、佐藤さんは個室で面会謝絶となった。悪質な悪戯が横行していると判断した病院による措置だった。  アイコちゃんは、もうこの世に居ない。じゃあ、あの子はいったい誰? 私は消灯時間になっても、なかなか寝付けなかった。すると、エレベーターが開く音がした。 ピンポーン。 きぃきぃきぃきぃ。 ガラガラガラガラ。 きぃきぃきぃきぃ。 ガラガラガラガラ。 きぃきぃきぃきぃ。 ガラガラガラガラ。 私の心臓は早鐘のように鳴った。 来る。近づいてくる。 この点滴棒の音。 アイコちゃんだ。 今日はこの病室には佐藤さんは居ない。 私だけ。 入り口でピタリと音が止まった。 いやだ。来ないで。 私は、布団を頭まで被って震えた。 きぃきぃきぃきぃガラガラガラガラ。 だんだんと音が近づいてくる。 もう心臓が爆発しそう。 シャー。 カーテンの開く音。 私の口はカラカラに渇いた。 いやだいやだいやだ。こないで。 ここには佐藤さんはいないから来ないで。 「おばちゃん、かくれんぼ?」 アイコちゃんが無邪気な声で言う。私は心臓を鷲づかみにされたように動けない。 ウフフと彼女が笑う。 「みぃ~~つぅ~けたああああ。」 ベッドの側に立っていたはずのアイコちゃんの顔が、私の目の前にあった。 布団の中だ。 私の意識はそこでブラックアウトした。  翌朝、ブラインドから洩れる日差しで目が覚めた。 あれは、夢だったのだろうか。私があの子を怖がるばかりに。 夢と現実が、よくわからなくなってしまった。
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