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小鳥が囀る四月、桜がゆらゆらと花弁を揺らしている入学当時
まだ初々しい四禮澪時がそこに居た。
高校の制服に身を包み、真新しいカバンに教科書を詰め
まだ通い慣れない村雲事務所へと足を運んだ。
「ただいま…」
事務所に入るとカバンをボンと客用の長椅子へ投げ捨てて、ギシッと音を鳴らしながら
椅子に腰を落とした。
「うぜぇ…」
澪時には見えざるモノが見える。
見たくもないそれらは、我が物顔でそこらに当たり前のように蔓延っているのだ。
幼い頃から見えている澪時ではあるが、最近は特に辺りがざわついている感じがした。
この街に、何かが…来るのか、あるのか…解らないがそれがウザったいと四禮が溜息を漏らす。
ぎぃ…と、扉が開けばひょっこりと顔を出した現在より少し若い村雲がひらひらと手を振って
室内へと入ってくると、その後ろから目をキラキラと輝かせた年上の女性が目に入った。
客か?と、澪時がカバンを自分の机へと移動させていると
二人は相談室へと入って行った。
その女性と村雲が相談室へと入って行くのを見てもう一つ溜息。
客が来たと言う事は、茶を出さねばならないのだ。
チラリと視線を向ければ彼女も自分を見て居たようで視線がかち合って、ペコリと頭を下げられた。
髪が長く、脇の付け根より少し下辺りまでの髪を、後ろで纏めて言わば一本縛りと呼ばれる縛り方で
明るい茶色の髪、大きく綺麗な瞳、少女より少し上だろうか…
その人と視線が合えば四禮は恥ずかしくなり視線を外して茶を淹れる準備を始めた。
茶を出し、挨拶をそつなく終わらせると部屋を出ようとした澪時にその彼女を助手として紹介したのは村雲だった。
「んじゃ、澪時の事よろしくね?力の受け渡し方法は教えた通りだけど、
澪時は特殊で手を握ったりするだけでも貰える事は貰える。その方法は二人で決めてね?」
初めて出逢って最初から丸投げの村雲はそう告げると相談室へ二人を押し込み、
コミュニケーションを取る様にと戸を閉めてしまった。
「よろしくね?私は桐藤睦美(きりとうむつみ)です。」
手を出すと、澪時もオズオズと手を出し、そっと握るとその手から伝わって来た彼女の純粋な霊力に目を見開いた。
今までこんなに純粋な人に会った事がないと、澪時は思った。
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