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その過去がある限り、澪時は恋をしないと決めた。
少しでも彼女に、恋心を抱いていたかも知れない記憶がある限り、他の人を見て良い訳がないと自分で決めた事。
泣いて過ごす事は無かったが、毎日のように睦美の見舞いに行って早三年が過ぎている。
やっと出来た新しい助手もまた…神子の可能性がある。
「澪時…何で辛い思いばっかりしなくちゃならないんだよ」
その一部始終を見ていた柊司がポロリと心を漏らした。
「睦美の件は、澪時の不甲斐なさだろう?
一花ちゃんのは今回は完全に不可抗力だ。
彼女を一時隔離しようかとも思ったが、神が相手となると、そう簡単に隠し通せないだろうから、一度攫わせるのも良いのかも知れないな」
「え?待って下さい、攫わせるって…」
「あぁ、考えなしではないぞ?」
村雲がスッと被害者が居なくなったと想定される近辺に丸印を書いていた地図。
その辺だろうと入手した情報の一キロ圏内を丸で囲んであり、トントンと指を指したのは、五つの丸が重なる場所で、先程広田が言っていた場所。
「ここの範囲のどこかに本体は居るだろうし、攫われた人間も未だ霊となっていないからな、恐らくどこかに生存はしているのだろう。
最悪一花ちゃんの意識がなくても力は受け渡しできるだろ?」
その非情な言葉に柊司が深い溜息を落とす。
「所長…そんな事言うから澪時に嫌われるんですよ」
そう告げれば、村雲は肩眉をピクッと上げて、溜息を吐く。
「なんだよ、現状把握は大事だろう?それに相手が悪霊ならまだしも神の可能性が高い以上、祟りを被るつもりで手を出せばとんでもない事が起こるだろう」
「ホント、所長は神様嫌いですよね」
「嫌いじゃなくて…相性が悪いんだよ、神様の力に贖えるのはこの事務所でも澪時位だ…その本人が戎会で出かけている以上、誰も彼女を護れないだろう?」
そう、澪時は神に贖う術を持っている。
と言っても、勝てるかどうか?と問えば答えはNOであり、戦う術ではない。
現在一花の力を使い常に一定の力を持っている澪時には造作も無いかも知れない。
「ったく、一花ちゃんが居る澪時はこの事務所内で最強だろうな」
「お?所長が弟子に越されたって認めるんですか?」
「違う、一花ちゃんが居るからだ」
ハイハイと言いながら、柊司は一花の眠る部屋へと入って行った。
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