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質が良いのまで見抜かれてはたまったもんじゃないなと、四禮が溜息を付き寺の中へと足を踏み入れる。
今回の議題はまさに現在進行中の、神隠し。
幼い少女で霊感のある人間ばかりを狙ってる所から、その中にもしかして神子が存在するかも知れないとか、
空想事ばかり並べては、可能性に変えて行く。
「そもそも生まれてなければ、神子もくそも無いんだけどね?」
と、あっさり発言したのは五詩悠樹(ごしゆうき)25歳。
ぼさぼさ頭で、唯一フリーダムな人間だと四禮は認識しているが、
彼は戎会の中でもかなりの傾奇者らしく、あまり好かれてはいないらしい。
その会合中周りの会話が一瞬止まった…そしてすぐに四禮の背中がギシリと痛んだ。
「っ…」
一瞬で、気が付いたのが数人いただろうか?
印を持つ者はこの業界では結構いる。
練習で印を結ぶ者も居れば、本当に通じ合うために印を結んでいる者も居る。
ただ、相対する印は、相手の痛みや穢れまでも流して来るため、こんな清浄な空気の中で
一花に触れた何かが穢れて居れば、それは直ぐに知られてしまう事となる。
「澪時…印でも結んだか?穢れを祓って来い」
そう、声が聞こえ頭を下げてその会合を抜けた。
ここに居る人間は穢れを嫌う…自分達も研究の為これから穢れるのにだ。
澪時はパタンと襖を締めると、壁に手を付きながら風呂場まで来ると、着ていた着物を全て脱ぎ去り
目の前の等身の鏡に掛かっている布を捲り上げると背中を映す。
「チッ、厄介な」
文字が通常は痣のように赤茶色だが、今は綺麗な赤。
まるで血管が浮き出て文字を象ったように浮き出ている印に舌打ちをもう一つ鳴らした。
(所長に頼んで来たが…かなり厄介な事になってそうだな)
チラリと風呂場の時計を見て深い溜息を落とす。
この会合は、本日を含め三日続けられる。
その三日間は携帯が使用禁止であり連絡を取る事が出来ないのだ。
帰って現状を知りたい思いと、この場所で一花の存在を知られていないか
そして、一花の情報が漏れて居ないか確認する事とが鬩ぎ合っていた。
この寺の風呂は、露天で今時五右衛門風呂と呼ばれる丸い筒状の一人入りの風呂が三つ並んでいる。
水を浴び、穢れを祓ってから風呂に入る事が許されるのだ。
澪時は月の元、静かに頭から桶に掬った水を身体に掛けると、はぁっ…と、息を吐き出し
それを数回繰り返す。
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