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静まり返った森の音だけが響く中、四禮の長い手足が水を弾き体のラインを
なぞる様に落ちて行く水滴に月が反射する。
痛みは十分程で収まったが、一花から来る力の質が変わると言う事は、その質を変えた原因がある…
正しければ何かの怪異と接触を起こしたと言う事だ。
澪時は、スッと月を睨み付けてから、横に有った風呂には入らずにそのまま脱衣場へと足を進めた。
◆
一方部屋に入った村雲が一花の前髪をかき分けて額を出すと指先で
額をなぞる様に印を直接身体に繋げる。
「う…」
小さく唸る一花に、悪いなと告げてパチンと指を鳴らせば、一花がパッと目覚めた。
「あ、れ?所長…?」
覗き込んで来る村雲を見て目を見開いて居た一花にニッコリと微笑みを向ける。
「おはよう、一花ちゃん、気分どうかな?」
「あ~…」
頭をぐしゃりと掻き乱すと、一花は現状を確認しようと周りを見渡す。
事務所だと理解すると、ペコリと頭を下げた。
「ありがとう…ございます」
「うん、で…体調はどうなの?」
「あ、大丈夫です耳鳴りも治まってますし、身体も重くはありません」
それを聞いて、そうかと笑ってベットの足元に置いてあったカバンを持たせた。
「さ、今日は帰ってゆっくり休んだ方が良い、柊司送って行くんだ」
自分の後ろの柊司へと言葉を掛けると、スッと一花の前に出て来て一花が
手で持っていたカバンをスッと取り上げる。
「へーい、一花ちゃん帰ろうか」
そう言われて一花はニッコリと笑ってお願いしますと伝えベットから降りると、事務所を後にした。
いつもの様に、横に付けられた車に乗り込むと、柊司が車を発進させた。
「ありがとう、柊司君」
「…あぁ」
苦虫を噛んだような表情を向けながら運転に集中する柊司に、何も知らない一花が礼を伝えるも、
そんな感謝される資格ないなと柊司の心が葛藤して居た。
結局、一花には印をつけて、居場所が解る様にだけしてそれ以外の対処はしなかったのだ。
結界すら張らないなんて、狙ってくださいと言わんばかりであるだろうにと、チラリと横を見やっても
一花は、ただまっすぐ前を見据えて居て、柊司の視線には気付かなかった。
恐らく狙われて居れば、連れ去られる。
きっと、澪時は怒るだろうなと思うと、それはそれで恐ろしいものがあると
頭を抱えるしか出来なかった
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