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部屋番号しか記載されていないポストをカチャッと開けば、スッと指先を天井へと滑らせ鍵を取り出した。
「お邪魔…します~」
ひょっこりと顔を出しても誰も居ないシンとした空間。
一花は荷物を置き、冷蔵庫を開けて中に買い物したモノを押し入れると
キョロリと辺りを見回す。
「ホント…何も無い部屋だなぁ」
そう呟いてから、風呂を借りようととりあえず中の様子を見てみるが綺麗に掃除されていて、
すぐにでも使える状態であると確認し、視線を這わせる。
「ふあっ!これ…男性用だよね…」
石鹸類は、お店で売られている紳士用のモノばかりで、一花はガックリと首を下げて再び買いだしに走る決意をした。
身体を洗うタオルも必要だと、次々とカゴへと入れている時だった。
「よう、一花じゃねぇか」
「あれ?横沢?」
買い物をしていると声を掛けられ、その場で立ち話を少ししたが、一花は時間に余裕がないのだ。
それに、詳細を知らない二人は明日も学校へ行くと思ってるだろうと思い付くまま口にした。
「あのね、明日から三日間学校休むから、マナにもそう伝えて置いて?」
その言葉に、横沢が眉間に皺を寄せた。
「なんか、あったのか?」
怪訝な表情の横沢に、苦笑いで仕事でちょっと抜けれなくなったと返すと
「でもお前、澪時が居ないって浮かれてたじゃねぇか」
と…当たり前に言われてしまい一花がガックリと首を下げた。
学校で、四禮が今日からお出かけ三日間の為自由時間が増えるから遊ぼうと約束をしていたのだ。
その約束は勿論横沢とマナにした約束であり、彼が不在なのに仕事と言う言葉がおかしい事に気が付いたのだろう。
「今は時間ないから詳しくは言えないんだ…後でメールするし!ごめんね急ぐから」
逃げるように一花は四禮の家へと走って行った。
一花を黙って見送った横沢が首を一つ傾げた。
「…なんだよ、一花の奴、ってか居ない澪時の家に向かってんのか?」
帰る方向は、一花と四禮の家のちょうど真ん中に位置するドラックストアからであれば右と左に分かれているのだ。
横沢が感づくのも、当たり前の立地での会話だったのだ。
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