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自宅へと到着すると、バイクにカバーをかけるのも忘れ、急いで部屋へと向かう。
張り付く髪が自分がどれほど切羽詰っているのかを知らしめるも、それも気にする余裕はなかった。
3日の間、かなり激痛に刺されて居たのもあるが、現在一花はどうなっているのかが全く分からず
バイクを飛ばし休憩も取らず帰ったのだ。
部屋の方角に感じる一花の気配にホッとしたのは部屋のあるフロアに到着してからだった。
「はっ、ちゃんと・・・居るじゃねぇか・・・」
息を切らしながら、エレベーターを待つ時間も勿体無いと言わんばかりに階段を駆け上がったのだ。
だが、自分の家だからとかなり強固に張ったはずの結界も既に半分は崩壊し周りに浮遊する怪異が見て取れる。
チッと舌打ちを鳴らすと指先に力を込めてパチリと音を立てれば、
浮遊していたそれらが遠くへと逃げていく。
「呼んだのか…一花が」
とりあえずどんな状況なのかを確認しなければならないと、部屋へ足を進め、
取り出した家のカギを指し込もうとして動きを止めた。
シリンダーが開いている方向を向いていて、鍵の必要がない事を示している状況に目を見開いて
慌ててドアを開ければ、大きな声が響いた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
それはまるで、人ではないような掠れた声。
四禮が眉間にシワを寄せると、取り敢えず状況を見なければと思い
ブーツを脱ぐと、慌てて部屋の中へ入ろうとした時だった。
居るはずのない第三者の声が響く。
「一花っ、暴れんな!それと喉潰れるって何回言わせんだよ!!」
ドスの効いた声、そしてその怒声が一花を黙らせたのか、室内がシン…と、音を消す。
慌てて中へ入ってドアを開いた四禮の目に飛び込んだのは、出る前とは全く違う部屋だった。
「っ・・・澪時!」
「拓馬・・・か?」
「早くっ、一花抑えろ!」
その言葉に我に返り、ベットの上、横沢の下に組み敷かれた一花を捉える。
「っ…」
ぶわりと、不思議な感情が沸き出て来る。
今まで経験した事のない何とも言い難い感情が四禮の中を渦巻いて来る。
だが、その感情に心を奪われる訳にはいかないと四禮はギュッと手を握り締め、一花の状況を
見極めようと横沢と場所を交代すると、ゆっくりと一花の上に被さった。
「ちょ、一花潰れんだろ!」
「アホか、動けなくすりゃ良いのに手首縛りやがって!」
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