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ここだ。
と、首元を離された一花が、チラリと辺りを見回せば、何やら黒い靄も見えるし、奥の方には何だかわからない変な空気を感じる。
今までに遭遇した事のない空気で、どうしていいかも解らずに、神成と広田を見るが、彼らは辺りを見渡して深い溜息を付くのみだった。
「あの、ここが誘拐された現場なんですか?」
「んーどうかは解んねぇ、澪時が居りゃあ、特定も出来るんだが…
この場所の近くがそれぞれの子達の最終認識地点なんだ」
良く見渡せば、田舎風景で木陰の奥に小さなお社。
【お社※神の降臨する場所。土地を清めて祭壇を設け、神を祭った場所】
公園の近くと言う事もあるのか、結構閑散としている雰囲気がある。
逆側の一花達の学校の方面に向かえば、家が段々と増えて行くのだがこの場所は目に入るだけで一軒家が数件と、マンションが木々の合間から見えるなか工場のような建物が何件か建ち並んでいる。
一花の暮らす街も、そんな賑やかな都市では無いにしろ、この場所は随分と寂しいと言う印象を受ける。
車で移動した訳でも無いのに…
「開拓が進んでいない?」
一花が不意に思った言葉を口に出せば、ぱぁっと広田の目が明るさを帯びた。
マズイ、これは…おもちゃを与えられた子供のような目の輝き。
彼の思惑に嵌ってしまったのかも知れないと一花は、その言葉を無かった事にするため、スッとその視線から逃げる様に辺りを見回した。
「寂しい所ですね~」
と、何気に誤魔化してみたが…。
「嫁!」
「って、嫁じゃないですから!」
「いいじゃねぇか、嫁で!それより、そうなんだよ…この場所は土地神に護られてるって噂と、呪われてるって噂が両立している場所なんだ」
そう言われると、気になるのは仕方があるまい。
なにせ、神に護られてるのに、呪われてるとはどう言う事なのか…その矛盾がやけに一花の心に引っかかりを持ってしまって、チラリと視線を向ければ…
やはり嬉しそうな顔をした広田を見て、ガックリと肩を落とした。
(気になっても…ダメだ、四禮君が居ないのに勝手は出来ない)
「スミマセン、詳しくは言えませんけど、この件については調べてる人いるんで、私は帰らせて貰って良いでしょうか?」
その言葉に、広田は目を大きく見開いた。
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