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誰とは言えない…なにせ自分の所属する事務所の人間なのだ。 広田にその人間の名を上げろと詰め寄られても、一花は苦笑いして逃げるしかない。 「あの、言えないんで…」 「誰だか言えば、帰してやる」 「広田さん、それ誘拐犯みたいですよ…いい加減解放してあげましょうよ」 神成の助けで一花がホッとした瞬間だった。 キィィィーンと、高音のまるで金属を削るような音が一花の頭に響き目を見開いた。 一花の直感がこの場所は危険だと告げている。 そしてそれは、あまり当たって欲しくないが今まで外した事は無い。 「ホント、た、体調悪いんで…帰して下さい…」 真っ青になった一花が告げれば現実味を帯びて、神成が一花の腕を引いた。 「帰りましょう、ごめんねこんなに冷や汗…」 スッと胸元から出されたハンカチで一花の額から流れる一筋を撫でる様に拭うと、一花を背中に背負った神成が、チラリとみれば広田がそんなに体調悪かったのか?と、一花の頭をポンポンと撫でる。 「大丈夫か?嫁…」 「…嫁、違い、ます」 あくまでも抵抗する一花と、あくまでも嫁と言い張る広田に苦笑いしながら神成が一花の身体を一度持ち上げて体勢を整えると、その場から歩き出した。 「どうして、体調を崩したんですか?」 「音…煩くて」 「音?」 「キーンって高い音」 「その音に頭が揺さぶられたって事ですかね?」 「そんな、感じです」 既に言って良い事と、ダメな事を判断付けれない程一花は音に酔っていた。 頭の奥まで響いて、脳を直接揺すられているような、眩暈が常に起こってるような、高熱で視界が回っているような、そんな全ての感覚が一気に一花を蝕んだのだ。 「家まで送りますから」 それに断れるほど体力もなく、一花は事務所へ送って欲しいと告げた。 もし、これが霊障だったらこのままで居られないし、今日は帰りに寄ろうと思って事務所へ行っていないのだ。 ただ、事務所までは結構な距離がある為、広田のポケットマネーで事務所までタクシーを使う事となった。 「すみません」 「いや、強引に連れてったの広田さんなんで、責任取らせます」 「おいおい、俺が悪者かよ」 「違うんですか?」 その言葉に、広田はぐうの音も告げられなかった。
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