血濡れの守り手②

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冗談のおかげで口元が噴出した紅茶でびしょびしょだ。シスター、笑ってないでタオルを貸してくれ。 隣にいるスライと正面に座るトゥラまで、肩を震わせて笑ってる。シスターの冗談で笑っているのか、濡れた俺の顔を見て笑っているのか。どちらにせよ俺を憐れんでくれるヤツはいないらしい。 今日1日でどれだけ顔をいじられるんだ。くそう。 「にしても派手に吹いたねぇ。ほら。このタオルを使いな」 リーバが出してくれたタオルで顔を拭く。顔についた紅茶を大まかに拭き取って俺はタオルを返した。 また顔をいじられて紅茶を吹き出す二の舞は御免だ。ちょっと空気を換えよう。 「シスター。ちょっとトイレをお借りします」 「はいはい」 さて、いい頃合いか。 トイレの後にちょっとした時間つぶしをしてから食堂に戻る。 時間はたっぷり空けた。もう俺の顔の話題から違うものに変わっているはずだ。 そう信じて食堂のドアの前で聞き耳を立てる。ドアの向こうからスライとリーバの楽しげな話し声が聞こえた。ところどころ聞き取れないところがあって何の話かはわからないがとりあえず俺の話ではなさそうだ。 俺はドアを開けて食堂に入る。スライとリーバはお喋りしていて、トゥラの姿はなかった。他の子供たちのところにでも行ったのだろうか。 席についてからも2人が話し続けていたので俺は聞き流しながら紅茶をすすった。 「そういえば、街では通り魔のことで話題が持ちきりですが、ここはどうなんですか?」 フッ、と。一瞬空気が覚めるのを感じた。 それまで続いていた会話が止まり、静かになる。俺は持っていたカップを置いてリーバを見る。 リーバを組んだ両手をテーブルに置き、ゆっくりと口を動かした。 「そうだねぇ……。子供たちはさっきのとおり元気にやってるよ。通り魔のことは学校や他の場所で聞いている子もいるけど、幸か不幸か、通り魔がいかに怖い存在かいまいちわかっていないみたいでね。過剰に怯えている子はいないよ」
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