血塗れの守り手

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「くそ……くそっ……!」 今までの被害者は人気のない場所で襲われている。繁華街にいる間は他の人の目もあるから襲われることはないはずだ。 だがいつまでもここにいることはできない。今は人で溢れているこの場所も夜が深まっていけば閑散とした場所になってしまう。それにもし相手が家の場所を知っていたら帰りを待つ妻と子供が先に襲われるかもしれない。 何かできないか。狐顔の男は必死に頭を動かして抵抗する手段を考える。けれど何も浮かんでこない。 そんな時、視界の隅に警ら隊が出入りする屯所が見えた。 男は立ち止まってまた考える。 彼らに事情を話して匿ってもらうか。しかし気配がするだけでどこの誰が尾行しているのかわかっていない。こんな状況でまともに話が聞いてもらえるのか。 仮に匿ってもらえたとしても、きっと自分が付けられるワケを聴かれる。それに何て答える? 少なくとも『アレ』を話すわけにはいかない。 『アレ』を話せば、自分も捕まってしまう。 (……いや) それでも死ぬよりは……家族に手を出されるよりはずっといい。 男から焦りと怯えが消えた。大切なものを守るために、彼は意を決して屯所に向かって足を踏み出す――が、すぐにその足は止まった。 ざくっ。 背中から腹部に向かって、男の体が刃物で貫かれた。 思考の停止はほんの数秒。今、何が起きた? 腹を見れば白いYシャツに赤い染みができていた。染みは体の内側から、じわじわと広がっていく。同時に体が熱くなり、痛みをはっきりと感じるようになる。 足の力が抜け、男はその場で膝をつく。 「ちく……しょう……」 思惑が外れた。人の目なんて、ヤツには関係なかった。 男は悟る。自分は助からない。きっとここで息絶える。 最後に妻を一目見たかった。子供たちに触れたかった。 そんな後悔を飲み込んで、家族の無事を願いながら、男は地面に倒れた。 ――これで標的のほとんどは消えた。 ――残すは、あと一人。
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