血塗れの守り手

34/34

201人が本棚に入れています
本棚に追加
/610ページ
それからアネは口を開かなかった。黙ったまま先に行ってしまった。 取り残された俺とスライはアネの後ろ姿が見えなくなるまで彼女の背中を見続けていた。 「コタロー様。大丈夫ですか?」 「……ああ。問題ない」 俺はそう答えて、乱れた服装を整える。 スライが聞きにくそうに俺に尋ねた。 「……彼女と喧嘩でもされたんですか?」 「……うん。まあそんなところ。ちょっとやらかしたんだ」 俺に気を使ったのだろう。スライは追及することなく、別の話題に切り替える。 「これからどうしますか?」 「どうするって、教室に戻るよ」 スライと目が合う。彼女の澄んだ眼差しは、そういうことを聞いたわけではないと訴えていた。 しかし俺はあえてそれを無視して、これ以上の会話を拒んだ。 どうするも何もない。アネにも言ったようにIキラの件は警ら隊の仕事だ。俺が首を突っ込む問題ではない。 学院の対応や風紀委員会の活動についても、俺がとやかく言わなくても他の誰かが気付いて動くはず。俺しか気づかないような、そんな特別なことではない。 ……アネの言ってたとおりだ。 さっきの俺の口調、上からものをいうようだった。遠まわしにだが、アネを俺の指示に従わせようとしていた。 無意識に俺は調子に乗っていたらしい。改めてそれを自覚した。 ポタ、ポタッ―― 窓の外から音が聞こえる。見れば窓ガラスに水滴が数滴ついていて、同時に校舎や地面も濡れ始める。 雨が降ってきた。小雨かと思ったがすぐに雨足が早まり、本降りに変わる。 ――俺がする必要はない。 きっともう誰かが気付いて動いている。もしかしたら既にわかっているのかもしれない。 Iキラの件は警ら隊の仕事。俺がアネにそう言った。首を突っ込むことではないとわかっている。 しかし。 だけど。 どうしても。 頭の中に残る引っ掛かりだけは、俺の手で確認しないといけない気がした。
/610ページ

最初のコメントを投稿しよう!

201人が本棚に入れています
本棚に追加