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「前に訊いた時も同じことを仰っていましたね。ちょっと、とは何なのですか?」
「………」
「……まあ、無理に訊こうとは思いません。話したくなったらいつでも言ってください」
スライの気遣いには感謝するしかない。俺は目線を移動させ、窓の外を見る。
今は日本で言う梅雨の時期なのか、晴天と呼べる日がほとんどない。今日も暗い曇天模様だった。
「本日も天気がよろしくなさそうですね。一雨来そうです」
雲の色からしてそんな感じだ。昨日もこんな曇り空から雨が降った。
視線を窓の外からスライに戻す。スライは既に帰り支度を済ませていた。俺も急いで鞄に荷物を突っ込んで準備を整える。
帰ろうとしている訳だが、寮に直行する訳ではない。今日は寄るところがある。
「この後ですが、予定通り、アネ先輩のご自宅に行かれるのでしょうか?」
「おう。そのつもりだ」
前回、孤児院に行った時にトゥラや他の子供たちと約束したからな。行かないわけにはいかない。
「やはり行かれるのですね」
そんなことを呟くと、スライは、ふぅ、と小さなため息をこぼした。
「差し出がましいことを言うようですが、今日の訪問は止めた方がよろしいのではないでしょうか。Iキラは未だ捕まらず、街のどこかに潜んでいます。コタロー様の身にもしものことがあるかもしれません」
「もしもって、ほとんど0に近い可能性だろう? 大勢の人がいる街の中で、俺が狙われるなんてこと、まずないだろ」
「ないかもしれませんが0ではありません! わずかにでも危険があるのであれば避けるべきです!!」
「圧が凄いというか顔が近い! 少し離れなさい!!」
スライは鼻と鼻が当たりそうな距離まで迫っていた。俺は両手で彼女の肩を掴み、腕を伸ばして距離を取る。
「お前が言うように少々危険かもしれないけど、子供たちと会う約束をしたんだ。それを反故にはできない」
「……どうしても、行かれるのですか?」
「ああ、そうだ。十分気を付けるから、今日だけ見逃してくれ!」
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