201人が本棚に入れています
本棚に追加
/610ページ
ただ、と付け加えて、
「……孤児院の安全面は、正直言って不安だらけさ。教会関係者の出入りはあるけど皆腕っぷしに自信があるわけではないし、夜は私しかいない。ここには子供がたくさんいるから例の通り魔からしたら襲うにはおあつらえ向きの場所だろう」
通り魔――Iキラが無差別に人を襲っているならこの場所は狙い目だと思う。昼間でも孤児院の周りの人通りは少ない。夜になればさらに減ることだろう。加えているのがたくさんの子供と大人一人だとわかれば狙わない手はない。
「毎朝祈っているんだよ。子供たちの笑顔がこの先も変わらず続きますようにって。こんな私の思いが主に通じていればいいんだけどねぇ……」
「通じていますよ、きっと。祈りを絶やさないシスターを無視するような神様なんていませんよ」
こんなことしか言えない俺に、リーバは微笑んでくれた。
「ありがとうね。それにしても、ふふっ。あの子と同じことを言うんだね」
「あの子というのは、アネ先輩のことですか?」
「そうだよ。アネは口には出さないけど、この場所を大事に思ってくれている。通り魔が出たその日から頻繁にここに帰ってきてくれているんだ」
アネが実家限定で外泊することを特別に許可されているのは知っている。トプノ学院長に孤児院の子供たちが心配だという旨を伝えたところOKを貰えたそうだ。この特例は風紀委員会の活動を真面目に行っていたアネの誠実さが実を結んだ結果だろう。
「先輩は今日も帰ってきますかね?」
「ん? あの子ならもう帰ってきたよ」
え。帰ってる……?
「気付かなかったかい? あなたがトイレに行ったすぐ後に帰ってきたけど、」
と、リーバが言ったところで――ガラッ。
扉が開かれ、アネが食堂に入ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!