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アネと目が合う。アネは白い目をして、俺に視線を送り返してきた。
「先輩。お帰りなさい」
「………」
俺の言葉にアネは何も返さなかった。無言のまま、くるりと体を180度回転させる。
「アネ。お客さんの前でなんだいその態度は? 挨拶くらいしたらどうなんだい」
リーバの言葉にも、アネはフンッと鼻を鳴らすだけだった。結局彼女は何も言わないまま食堂から出て行った。
「まったく、あの子は……。気を悪くしないでおくれ。通り魔のことで気が立っているのか、ずっとあんな調子なんだ」
「大丈夫ですよ。気にしてませんから」
「今日は特別機嫌が悪そうだった。何かあったのかね?」
Iキラのこともあるだろうけど、たぶん俺がここにいることも機嫌を損ねている理由のひとつだろう。
それを言えばリーバに気を使わせるだろうと思ったので俺は何も言わないでおいた。
「ここにいる時のアネ先輩は、いつもあんな調子で気を張っておられるのですか?」
「まあ、そうだねぇ……。子供たちの前では気を付けているみたいだけど、ひとりになると時々怖い顔をして何か考え事をしているよ。夜遅くまで起きている時もあるみたいなんだ」
「そうですか。もしかして通り魔のことで、調べ物をされているのでしょうか?」
調べ物。それはない気がする。
現実のようにネットが普及しているならそれも分かるがこの夢にそんなものはない。いくら夜更かししたところで孤児院から一歩も出ずにIキラの情報を得ることは不可能に近い。
考えられるのはIキラの襲撃を警戒して夜通し起きているのか、もしくは全員が寝静まった後にこっそり街の外に出てIキラの情報を探っているか、だな。
「……あの子はもう少し、肩の力を抜いた方がいいんだよ」
しんみりした口調で、リーバが言う。
「あの子は昔から責任感が強くてね。自分がここで1番年上のお姉さんだからっていうのもあるんだろう。私が困っているといつも助けてくれるんだよ」
「そうなんですね」
「ああ。だけど何でも一人で抱え込むところもあってね。今回の通り魔のことも警ら隊に任せればいいのに、あの子は自分の手で何とかしようとしてるみたいなんだ」
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