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日が沈みかけているからか、街を歩く人は孤児院に向かう時より減っていた。歩いている人も若干小走り気味だ。Iキラの襲撃を恐れてのことだろう。
そんな街中を歩く俺たちの間に会話はない。無言のまま学院に向かって歩いていた。
この空気を最初に破ったのはスライだった。
「先ほどの2人……警ら隊の方と何を話されていたんですか? なんとなく、言い争っているように見えたのですが……」
「……別に。言い争ってねぇよ。あのワンシって若いヤツに色々と聞かれて、それに答えてただけだ」
背を向けたままのアネが答える。スライはそこで止まらず、さらに踏み込んだことを訊く。
「それはやはりIキラのことですか?」
「そう。あの通り魔、昨日の晩にまた事件を起こしたらしい。今度は誘拐したって話だ」
「またですか。それで。誘拐されたというのはどなたですか?」
「……さあな。アーシも聞いたけど、捜査内容を話すわけにはいかないんだとよ」
返答までの間。話し方のリズム。表情。それ以外にも色々な場所から伝わる情報が俺に囁く。
アネは何か隠そうとしている。俺には大体の見当がついていた。
恐らく通り魔事件はあと少しで解決する。Iキラは、直に捕まる。
街にとってはいいことだ。恐怖を運んできた存在が消えるのだから。
しかし万々歳とはいかない。Iキラが捕まれば悲しむ者たちがいる。
天秤が揺れ動く。どちらに傾いても悲劇は起こってしまう。
「……今の、聞こえたか?」
突然立ち止まったアネがそんなことを言う。
「今の、って……?」
「何も聞こえませんでしたが?」
俺とスライは首を傾げる。その一方でアネは緊張した顔つきになって、頭の上の犬耳をぴくぴく動かす。
「……あっちだ!」
バサッ! とアネの背中から白い大きな翼が飛び出てきた。アネは翼を羽ばたかせ、上空に向かって飛翔した。
「せ、先輩!?」
呼び止めようとしたがそれより早く上空のアネはどこかに飛んで行ってしまった。俺とスライは一度顔を見合わせて、それからアネの後を追った。
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