忠告 type『A』

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 二人の話では、看護士にそんな指示を出した覚えはなく、昨日退院した患者もいないというのだ。そもそも、昨日まであの男が使っていたベッドは、俺が入院してきた時からずっと空きだったらしい。  一応、病院中の看護士さんと面通しをさせられたが、昨日、移動を告げに来た看護士さんはいなかった。ただ、面通しが終わった後、古株の看護士さんが二人ばかり戻って来て、こっそりと俺に教えてくれたことがある。  どうやらあの男は、俺が伝えた風体からして、二年ばかり前にここに入院していた人らしいこと。退院間近だったが、急に容体が悪化したとかで亡くなってしまったこと。ただ、どうもその死因が、容体の悪化ではないらしいこと。何故かそれ以降、その人の使っていたベッドは空きのままだということ。  他言無用で内密に教えられた話に、俺はただただ首を捻ることしかできなかった。  結局、あの夜のことは何だったのか。あの男は何者だったのか。どうして俺に忠告をしてくれたのか。その一切が謎のまま俺は病院から退院した。  でも、判らないことだらけの中で、一つだけはっきりしていることがある。  それは、俺があの人に命を救われたということだ。  今でも記憶にこびりついている、あの夜のベッドの惨状。もし俺があの忠告を聞きいれずあそこに横たわっていたら…それを思うといまだに背筋が冷たくなる。  どこの誰かも判らないままだけれど、本当にありがとう。心から感謝してます。  あの日のことを思い出すたび、俺はあの人の面影に心の中で手を合わせ続けている。 忠告 type『A』…完
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