第1章

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 ビルの谷間の細い路地。  暗くて狭いその路地を、不安になるまでまっすぐ歩くと、ふいに、小さな看板に出くわす。  『魔法陣売ります』  看板につられてドアを開けると、一回り小さなドア。さらにその扉を開けるとさらに小さな扉で。  だんだん小さくなっていくドアをいくつもくぐり、ついにかがんでドアを押し開けると、中は意外に広い空間。  そこでは、真鍮の天秤、ガラスの浮き球、気球のモビール、羊皮紙に描かれた世界地図……と、一風変わった「雑貨」たちが待ち構えている。  そして店の一番奥、雑貨に埋もれたレジカウンターへ近づいていくと、 「いらっしゃい」  と、鏡写しの二つの顔が同時に笑う。    そこは「魔女」を自称する双子の姉妹・リザ、モナが営む店。  想像力豊かだが、大胆すぎて細かい作業に向かないリザと、  緻密な作業が得意なのに、発想力が絶望的に欠如しているモナは、  「デザイン」と「描画」を分担して魔法陣を描き、売っている。    彼女たちの作る魔法陣で召還できるのは、「なりたい自分」。  どんな自分になりたいのか、どうしてそう願うのか。  想いを正しく魔法陣に変えるため、姉妹は依頼人の心の内側を知りたがる。  そこに嘘は厳禁。  そして召還魔法が成功するには、依頼人の「ひとつの努力」が不可欠。  言いつけを守れる人だけに、魔法陣の恩恵が与えられる。    けれど姉妹はあえてそうとは言わないで、かわりにいつも、にっこり笑ってこう言うのだ。  「お守り程度の期待度でね」
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