26人が本棚に入れています
本棚に追加
/152ページ
そう…毛利君。
彼はあなたが過去の恋人である
雨宮君と同じクラスになり、
段々と近くなっている事を知った。
坂崎君が恋人なのは見逃せて、なぜ雨宮君はダメなのか。
それは時代を越えて存在する強い結びつきである事を、彼自身が実感していたからよ。
だからつい焦ってしまった。
そうしていてもたってもいられなくなり、
ついに復学する事を決めたと云う訳。
…結局それもままならなくなったけど、
彼はあなたの中にある雨宮君との過去の記憶だけが蘇る事が…怖かったの。
…簡単に言ってしまえばジェラシーよね。
ああは言っても二人共まだ当時は17歳だったんだもの。
それならばせめて自分との記憶も取り戻して欲しいと…願ったんじゃないかしら」
水川が言い、タケルの顔が浮かんだ。
…忘れないよタケル。
…忘れない。
…私とタケルがどのような季節を一緒に過ごしたのか。
でもタケルだけじゃない。
私は当時に春木と過ごしたあの時間の事も思い出す。
そしてふと行き当たるのだ。
…私は2人を残し、先に死んでしまったのだと。
「…もっと詳しい事は…その当時あなたが関わったクラスメイトに聞いた方が良策かもしれない。…私達親子はそれを、ただ見守ってあげるしか出来ないから」
水川は言い、私の頭を優しく撫でた。
全てを知り、全てを許し、
そして今をきちんと生きていくことが出来るかどうかは自信がない。
けれど…
「…あなたにとってはあまり関心がないかもしれないけれど、北先生もそのうちの1人よ。勿論生徒ではないけどね。
彼は第二次大戦時、この近くにある
尋常中学校で教師をしていたの。
当時はハキハキした活動的な先生だったらしいけれど、戦時中教え子が亡くなる度酷く落ち込んで…最後は空襲で亡くなったらしいの。…けれど彼は記憶が蘇った途端、
あんな風になってしまった。
俯いてばかりで顔も上げず、
今はただ生徒達から疎ましがられる存在って訳。…昔の名前は確か…」
栗田 昭一。
水川がそう言い、
全てはどこかで繋がっているんだと思わずにはいられなかった。
かなえちゃんがあの日言った、
私の初恋ではない初恋。
春木と出会う前の、
淡く優しい先生。
最初のコメントを投稿しよう!