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「……今日のお休みは…天津(あまつ)君と…毛利(もうり)君、…それから白井(しらい)さんですね。
…あ‥あの昨日渡した家庭調査用紙は明日までに提出して下さい…」
どこからかの孤独な桜の花びら。
幾度か小風に煽られ、
教室の床にふわりと落ち着いた。
担任の北 昭一(きた しょういち)は
終始滑舌の悪いままで、
辿々しく連絡事項を伝えると、
逃げるようにその場を去る。
『久々の担任で緊張してる?
もっとでかい声出るでしょーに。
それに休みはいつもその3人って決まってんじゃん。
いちいち確認ご苦労さん』
浩太達ならこの状況も、
そう一笑に付してしまう。
けれどこの教室ではそんな台詞を吐くものもいない。
360度、
どこを見渡しても冬の海みたいな静けさが広がるだけだ。
各クラスに1名ずついた、完全不登校生徒3人、
残り17名はこの2年間
イジメられていたか、空気のような生徒達。
他2クラスが35名なのに比べ、
私を含む計21名の少人数で編成されているのが、この3-Dの空間なのだ。
そして始業式翌日から3日、
この状態は微塵も変化していない。
昼休みが死ぬほど待ち遠しく、
水中から這い上がるように浩太達の元へ向かい、忘れていた呼吸を思い出す事も。
「…で、今日は誰かと喋った?」
日課のように朱里はそう訊き、
「な訳ねーだろ。1番前の席でプリント配る時しか後ろ振り返らないってこいつ言ってんじゃん。
毎日同じ事訊くなって」
と私の代わりに浩太が答える。
午後の始業間近の学食には、
もう生徒は殆どいない。
「…だよねぇ。
可哀想に優菜。ここで思いっきり発散しておいき」
朱里が肩をすくめ、ついでに瑛太のお腹の肉をつまむとニヤリと笑う。
「この肉つまみ、いつでもさしてあげるからさ」
「やめろよ朱里ぃ。俺はストレス解消グッズじゃねーぞ」
「うるさいわねバカ。
こんなのくっつけてても何の役にも立たないんだから、せめて優菜の役に立ちなさいよっ」
「…バカはそっちだろ?
いつもHん時この肉が気持ち良いって‥」
瑛太が言い、きまり悪そうに口をつぐむ。
「…んもぅ‥…バカっっ!」
朱里の頬が朱に染まり、
次いでその手が小気味良く、
肉付きの良い背中を叩いた。
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