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「ねえ、貴方は覚えていてくれるのかしら?」
突如、頭の中で響いた声。
確かに幻聴だと理解しているのに、余りにもリアルに再現された音は耳元で囁かれた様で、優しい吐息の掛かる感触すら甦る。
振り向いた。
幻聴でしかないと、解っていながら声がしたと思う方向に。
居ない。
そう、誰も居ない。
此処には誰も。
伽藍とした静謐に支配される聖堂の中。
日曜の朝には祈りを捧げる人達に埋め尽くされたであろう場所。
傾き、へし折れた十字架。
転げ落ち、半分に割れたメシアの顔。
悲しみ、憂い、そして慈愛。
原罪は、本当に背負われたのだろうか?
石くれと化した象徴に、そんな疑問が浮かぶ。
「貴方は覚えていてくれるのかしら?」
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