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その後ロベルトはそこで働いた。
店の掃除や食器洗いなどの雑用が主だったが、ロベルトは懸命にこなした。その間クロウとフランクは世間話に花咲かせていたが、夕方ももう18時を過ぎ、ロベルトが水回りの掃除を終えた頃には、クロウの姿はすでになかった。
「おうロベルト、ご苦労さん。終わったか?」
「はい、あの…クロウは?」
「さぁな。あいつは昔からフラフラしてっから」
「彼とは付き合いが長いんですか?」
「ああ、そうさなぁ。かれこれ10年ぐれぇになるか。アイツかまだほんのガキん頃にふらっとこの街に現れやがったんだ」
クロウはどうやらダストの出身ではないらしい。
「クロウの本名って知ってます?」
「いんや。アイツは何も喋らねぇから。そもそもそのクロウってのも、俺がつけた名だ」
「そうだったんですか…」
「まぁここはワケありもんの集まる場所だからな。クロウみてぇなのも珍しかねぇ。おっと無駄話が過ぎちまったな。年取るとこれだからいけねぇ。おらロベルト、休憩はしまいだ」
そこでこの話は終わってしまった。
夜になると店も昼間からは想像もつかない賑わいを見せた。
フランクは客に好かれた店主で、様々な客が訪れ店で渇きを癒した。ロベルトも慣れない接客に翻弄されたが、フランクの知り合いの若い新人ということで可愛がられた。この街の人間は柄は悪いが、それだけではないのだとロベルトは思った。
「今日はよくやってくれたな。助かったよロベルト」
時間はまだ21時を回ったという頃だが、客足は引き始めていた。フランクの店仕舞いは他と比べて早いらしい。
「これ、今日の働き分だ」
そう言って差し出されてたのは、数枚の紙幣だった。
「こんなに…頂けません!僕たいしたことしてないのに」
返そうとすると、手に握り込まされた。
「こりゃおめぇさんのだ。取っといてくれ」
フランクは笑みを浮かべて言う。その笑顔に根負けする。
「本当に、ありがとうございます!」
深々と頭を下げると、フランクがまた笑う。
「よせよせ、堅っ苦しいのぁごめんだ」
「ですが…」
「敬語もやめてくれ。体がかゆくなる」
「じゃあ…フランク、ありがとう」
おどけて見せたフランクに、ロベルトは心から感謝した。
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