3.フランク

6/6
前へ
/68ページ
次へ
* 「僕、そろそろ帰るよ」 店の片付けも終わり、時刻は22時過ぎ。 少し酒と食事を頂戴した後、帰り支度をしてフランクに声をかけると、フランクが店の奥からひょこりと顔を出した。 「なんだロベルト、泊まってくんじゃないのか?」 「そこまで悪いよ」 「気ィ遣うな。なんなら住み込んでもらっても構わねぇぞ。だいたいロベルト、お前行く宛あんのか?」 そう言われると、行く宛などない。知り合いもいなければ、宿を取り続けるだけの蓄えもない。 だが、ロベルトはもうどこに行くか決めていた。 「ありがとうフランク。でも僕、クロウのとこに世話になろうと思ってるんだ」 「クロウの?アイツそんなこと一言も言ってなかったが…」 「僕が思ってるだけ、だからね」 「クロウなぁ….受け入れられるといいが。しかしロベルト、お前さん意外と…」 そこでフランクは言葉を切り、訝しげに片眉を吊り上げたかと思うと、次いでニヤリと破顔してこう言った。 「図太い野郎だな」 「はは、僕も自分で驚いてるよ」 クロウなら受け入れてくれるという根拠のない確信が、元来気の弱いはずのロベルトをそうさせた。 …酒で少し気が大きくなっていたのも多分にあるが。 「なら気ィつけて帰れよ」 「ああ、ありがとう」 外に出ると寒さで身が震えた。 マフラーを巻き直し雪の道を進む中、遠くで鴉の鳴き声が聞こえた気がした。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加