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「僕、そろそろ帰るよ」
店の片付けも終わり、時刻は22時過ぎ。
少し酒と食事を頂戴した後、帰り支度をしてフランクに声をかけると、フランクが店の奥からひょこりと顔を出した。
「なんだロベルト、泊まってくんじゃないのか?」
「そこまで悪いよ」
「気ィ遣うな。なんなら住み込んでもらっても構わねぇぞ。だいたいロベルト、お前行く宛あんのか?」
そう言われると、行く宛などない。知り合いもいなければ、宿を取り続けるだけの蓄えもない。
だが、ロベルトはもうどこに行くか決めていた。
「ありがとうフランク。でも僕、クロウのとこに世話になろうと思ってるんだ」
「クロウの?アイツそんなこと一言も言ってなかったが…」
「僕が思ってるだけ、だからね」
「クロウなぁ….受け入れられるといいが。しかしロベルト、お前さん意外と…」
そこでフランクは言葉を切り、訝しげに片眉を吊り上げたかと思うと、次いでニヤリと破顔してこう言った。
「図太い野郎だな」
「はは、僕も自分で驚いてるよ」
クロウなら受け入れてくれるという根拠のない確信が、元来気の弱いはずのロベルトをそうさせた。
…酒で少し気が大きくなっていたのも多分にあるが。
「なら気ィつけて帰れよ」
「ああ、ありがとう」
外に出ると寒さで身が震えた。
マフラーを巻き直し雪の道を進む中、遠くで鴉の鳴き声が聞こえた気がした。
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