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ロベルト・カーラーンが生まれ育ったサバーブは、中流階級の者が多く住む地域であり、商人や職人の街でもある。
ロベルトの父親も例外なく家事職人であった。暮し向きは可もなく不可もなくという有り体だったが、夫婦二人とその息子を養うことはできた。現状よりも高みを目指す者が多い中、彼の父はささやかな暮らしを望んだ。母も賛同し、決して裕福ではなかったがロベルトも人並みに幸せであった。
そんな生活が変わったのはつい一年前の話だ。
父が死んだ。流行りの病だった。
年々少なくなる父の収入となけなしの貯金は、治療費に消えた。残されたのは古びた鍛冶屋とやつれ疲れ果てた母子だった。泣く泣く父の店を売り、その金でささやかな葬儀を行なった。残りは当面の生活費にあてたが、長くは保たなかった。母は内職を始め、ロベルトは学校をやめた。働き口を探さねばならなかったが、サバーブには彼のような未熟な青年を雇う余裕のある者などいない。ロベルトは街を出ることにした。
そうして19歳になったロベルトが、単身踏み入れたのがこの街ーダストシティだ。
見慣れぬ街並みにロベルトは辺りを見回した。
職を得るため知り合いの紹介でたどり着いたこの街は、ロベルトの目にあまりに異色に映った。昼だというのに千鳥足でたたらを踏む者、道の端で座り込む者、注射器を片手に虚ろな目で宙を見つめるものーこの街は喧騒と空虚の臭いに満ちている。
二月の寒空の下、ロベルトはマフラーで鼻を覆った。
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